2020年2月17日月曜日

新型コロナウイルスについて

学者によっても意見が分かれるこのウイルスについて、本当に役に立つ情報を知ることができのが、東北大学ホームページの押谷仁教授『新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか』だと思います。

押谷仁教授は、SARS感染拡大の際に、WHO西太平洋事務局の責任者として陣頭指揮に当たった人です(同僚のカルロ・ウルバニ内科医は感染で亡くなられた)。

ぜひ全文を読んで欲しいのですが、読むのが面倒くさいという人のために要旨を引用します。
(テレビに出演している御用学者の言うことはあてになりません
(テレビでは控えめに発言しなければいけない事情もある)


『新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか(№1)』2月4日

SARSの場合はほとんどの感染者が重症化し、典型的なウイルス肺炎を発症したので発症者のほとんどを見つけることができたが、今回のウイルスでは軽症者や無症候性感染者がかなりの割合でいると考えられ、感染者を徹底的に見つけることができない

また、SARSの場合潜伏期間や発症初期にはほとんど感染性がなく、重症化した段階でのみ感染性があったと考えられている。このために発症した人を早期に適切な医療機関に隔離すれば封じ込めをすることが可能であった

今回のウイルスは、発症者を早期に隔離してもその前に他の人に感染させている可能性があり、封じ込めはできないことになる。

中国の初期対応の遅れを非難する論調が多く見られるが、おそらく武漢で流行が始まったときにSARSに準じた対策は行っていたはずである。しかしこのウイルスの疫学的特徴はSARSとは大きく異なっていた。このために「見えない」感染連鎖が広がっていて手のつけられない状態になっていたというのが実情だったのではないかと思われる。


『新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか(№2)』2月12日

シンガポールでは、2003年のSARSの流行の後、このような事態に対応できる体制を整備してきた。
シンガポールではほとんどすべての病院でこのウイルスの検査をする体制が整備されていて1日2000検体以上を検査することが可能である。日本においても検査体制は急速に整備されていくと考えられるが、現時点では日本には感染連鎖を可視化するすべは限られている。

たまたま「見えた」クルーズ船の流行にのみに目を奪われて、全体像を見失ってはいけない。

我々は今、非常に厄介なウイルスを相手に戦っている。「過度に恐れずにインフルエンザと同じような対応を」というメッセージを伝えるだけでこのウイルスにたち向かうことができるとは私は考えていない

日本でも、毎年高齢者を中心に多くの人が季節性インフルエンザで亡くなっている。しかしその死亡のほとんどはインフルエンザ感染の後に起こる細菌性肺炎やインフルエンザ感染をきっかけに寝たきりの高齢者などが心筋梗塞など別の原因で亡くなるインフルエンザ関連死と呼ばれる死亡を含んだものである。
しかし、この新型コロナウイルスはまったく違う
重症化した人ではウイルスそのものが肺の中で増えるウイルス性肺炎を起こす。重症のウイルス性肺炎は治療が困難で、日本でも救命できない例が出てくる可能性は十分に考えられる。寝たきりの高齢者などにとってもこのウイルスはもちろん危険なウイルスであるが、中国では50-60代の人も多く亡くなっており、30-40代の人の死亡も報告されている

同じようなウイルスが50年前に出現しても中国の一つの地域で謎の肺炎で多くの人が亡くなったという程度のもので終わったはずである。SARSの起きた2003年とも我々はまったく違う時代を生きている。

SARSはヒトからヒトへの感染連鎖をすべて断ち切ることができ、グローバルな封じ込めに成功することができた。しかし、このウイルスについては中国で流行が収束傾向に向かうとしても、これだけ広範に広がってしまい、かつ感染連鎖の非常に見えにくいこのウイルスの感染連鎖があと半年ですべて断ち切れるとは考えられない

「過度に恐れずインフルエンザと同じ対応」をしていれば十分というような感染症ではないと私は考えている。インフルエンザに対してはワクチンや抗インフルエンザ薬、さらには迅速診断キットというツールがあるが、このウイルスには現時点ではそういったツールはない。


『新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか(№3)』2月15日

現時点で、中国本土以外で感染連鎖をある程度可視化できているのは私が知る限りシンガポールと香港だけである。いずれもSARSの流行の経験があり、このような事態に対応できる体制の整った国・地域であるからこそ可視化できていると考えられる。
日本は、シンガポールや香港とは人口規模が違うので、今後、今回のクルーズ船の感染者を除いても、日本が突出して感染者数の多い国になる可能性がある

メディアはクルーズ船の報道ばかりをして全体像を見てこなかった過ちを繰り返すべきではない。見つかった感染者の周りには数十人からもしかすると数百人の感染者がいるかもしれない。見えてきている感染連鎖はまだほんの一部である可能性もある。

クルーズ船内で検疫官が感染したことが発表されている。感染対策の不備が感染につながったといった報道がなされているが、私は必ずしもそういったことが理由であるとは考えていない。このウイルスの感染経路については現時点では何も正確なことはわかっていないが、従来考えられてきた方法だけでは完全に感染を防げない可能性も考えておく必要がある。検疫官という、こういう事態に備え訓練をしてきたプロが、毎日数多くの感染者が新たに出ていて緊張を強いられるクルーズ船のなかで感染したという事実をもっと重く受け止めるべきだと私は考えている。どれだけの人がクルーズ船の中の彼と同じレベルの緊張感を持って人込みの中を歩くことができるだろうか。私には到底できそうもない。

このウイルスに対して封じ込めはできないと私は考えているが、感染拡大のスピードをコントロールすることは可能である。感染している人の咳エチケットや手洗いは必要である。熱や咳のある人が無理して出社して職場で感染を拡げるというようなことは絶対に避けなければならない

新型インフルエンザの場合は、子供が地域の感染拡大をけん引してしまうことが多く、学校閉鎖は流行初期には有効な対策と考えられるが、今回の新型コロナウイルスでは子供の感染は少なく学校閉鎖が感染拡大のスピードをコントロールするために有用であるとは考えにくい

都市の封鎖やクルーズ船に対して行った船上検疫といった対策は19世紀に行っていたような対策である。21世紀に暮らす我々はもっとスマートな方法で感染拡大のスピードを抑えていく必要がある。東京オリンピックに備えて考えられてきた在宅勤務・テレビ電話会議・時差出勤などを前倒しで実施することは当然考えられる。宅配システムを使って高齢者や基礎疾患のある人に日用品を届けるといったことも可能かもしれない。地域でさまざまな工夫をしながら社会機能を止めることなく感染拡大のスピードを抑えていく必要がある。それらの対策は、感染拡大が明らかになってから実施するのではなく、今すぐ実施する必要がある。今、1つの感染機会を減らすことはその先につながる100人あるいは1000人への感染連鎖を断つことにつながる可能性があることを忘れてはいけない。

(以上、引用)

香港が「無観客競馬」を施行しているのは、感染が拡大しているからではなく、感染拡大を防止するためです(死者数1は日本と同じ、17日時点)。


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